オレは田町で仕事をしていた。
つい最近までは西新宿が勤務先だった。
契約社員という名目で、やっていることは俗に言う派遣というものだった。

別に嫌いではなかった。
正社員などと違って、理不尽なサービス残業や明らかに理に適っていないような意味不明な組織への忠誠心を強要されることがなく、決められた時間の中で決められた業務をこなせばいいのだから。

ただ、ここのところ明らかに経費削減と思われるような露骨なシフトカットが出始めており、勤務先の基盤を地方に移転させるという不穏な噂も後を絶たなかった。

正直なところ、何も勤務先が西新宿である必要性はなかった。
収入も減って来ている現状もあり、何よりもマナミと出来ちゃった結婚してしまいそうな状況でもあった。

しかし、過去に転職というか再就職したことがあるだけに、所属先を変えるまたは異業種に転職する気にはなれなかった。

手間と時間と経費の部分から見ても得策ではない。
そもそも多くの会社が行っている人物重視の選考という名目の面接が嫌いだった。

所詮はふるい落としをするための参考でしかない…。

そうとしか思えないような扱いしかされなかった。

その試験を通過するには、オレの最も苦手な自分自身をその会社の求める人物像にある程度改造するという作業が必要だった。

やろうと思えば出来ないことはなかったが、そこまでしてその試験を通過したいとは思わなかったし、何よりもその価値を見出だせなかった。

それは結局のところ偽りの自分なわけで、そんな張りぼてをいつまでも演じてられるわけもない。
いずれは化けの皮が剥がれる。

ならば、最初からありのままの自分を受け入れてくれるようなところ、またはそういったことをあまり重視しないようなところに身を置く方がいい。

ネコや羊の皮を被り続けることやそれを取り繕い続けることに価値はないと思っていた。

結局のところは夢も希望もない、そしてやりたいこともない、というだけなのだが…。