『百合…少し話せる?』
『うん…』
僕達は、テニスコートの横にあるベンチに座った。
僕達の距離は30センチ。この空間が、まだ恋人ではないという証拠。
僕の心臓がうるさく鳴る。
だから僕は何も話す事が出来なかった。
百合に一目惚れした時になった、あの感覚になっていた。
僕の心は、次第に無邪気だった一年生に戻っていく…
『……話って何?』
『えっと…』
僕の頭は真っ白になっていた。
でも真っ白の中に、写し出された名前。
百合と名前が写し出された。
『百合…』
『ん?』
『ゆっくり…話すから聞いて?』
『うん…』
僕はうるさく鳴る鼓動を、落ち着かせながら話していった。
『…俺…ナナと別れた』
『え…?何で?』
『自分の答えが出たんだ』
『そう…なんだ…』
『百合…俺…百合に告白されて…揺れたんだ。自分の気持ちに。俺はナナを守るって約束したから。ナナを守らなきゃいけなかった。』
『うん…』
『だから百合の事は忘れようとした。もし…百合とまた付き合ったら…過去の事とか思い出されるんじゃないかって…』
『うん…』
僕はゆっくりゆっくり…百合に想いを伝えていく。