「ちょっと黙っててくれるかな?」



まだ鳴り続ける携帯を持ち、私の目の前に男が座る。


携帯を持つ手と逆の手にはナイフがあった。


暗闇の中でも光っている鋭い刃。


私の左頬がひんやりした。



もう、黙る事しか出来なかった。


死ぬ事が


殺される事が恐かった。



男はためらう事なく電話に出る。



「はいはい。あ~、ごめんな。仕事忙しくて電話かけられなかった。あ~。もう少しで帰れると思う。」



こんな様な事を話してたと思う。





こいつは奥さんがいるんだ。


家に帰ったら普通の父親なんだろう。


奥さんがいて、家庭があって…。


なんでこんな事するの?