『急に描きたくなった。帰ろう!』

しんみりとした私とは正反対の明るい声で彼はそう言うと、ぐいぐいと手を引いて歩き出した。

力強い手に引きずられるように私も歩き出す。

歩きながら彼の上機嫌な表情を盗み見て、やっぱり今日は描きたかったんだなと思う。

彼は優しいから、デートの途中に帰れとは言わない。

私が、彼の創作意欲に敵うわけがないから、今日はきっと、駅でバイバイするんだ。

私は、そう確信した…。