なぜなら、私も現に『彼』を繋ぎ止めているから。

彼は、本腰を入れて画家の道を歩もうとしている。

普段ひどくおっとりとした性格の彼は、絵を描き始めたらものすごい精神力を発揮する。

表現に納得ゆくまで何度でも下書きし、色を作り、塗り、そして初めから描く。これを、彼は気力体力の続く限り延々と続けるのだ。

絵を描いているうちは、今が昼か夜かはもちろん、食事だって気にしていない筈だ。私は絵を仕上げた彼が空腹で倒れ込んでいるところに何度か遭遇したことがある。

彼の作品が入選する回数は増えている。

私は、大空に羽ばたこうとしている一羽の鳥を籠に閉じ込めて飼い殺そうとしてはいないか?

彼は、今日の水族館デートの為に、今日取りかかる予定の作品の描き始めを明日にすると言った。

『最近調子がいいんだ。たまにはデートしようよ』

彼の調子がいいのは知っている。私は大喜びした。

しかし、こうも思うのだ。

だったら、尚更今すぐに描きたいのではないの?本当は我慢をしているのではないの?