さくらの後ろから男性が声をかけて来た。
不意の事にさくらは慌て、裏声で返事をしてしまった。
(さくら)「ひゃっ、ひゃい‼?」
(?)「オメェ「面接したい」って電話かけて来たやつか?」
(さくら)「あっ、はっ、はい」
三十半ばと思われる、もみ上げからアゴまで髭を薄く伸ばした男性は、さくらにズカズカと近づいて、手に持っていたビニール袋を差し出した。
(牧場長)「俺は牧場長の飯島和也だ、これ着替えだから事務所に入って右手の更衣室で着替えてこい、着替えたら仕事の説明するから」
牧場長は勝手に話を進め、さくらから通りすぎていく、訳のわからないさくらはあわてて牧場長を呼び止めた。
(さくら)「ちょっ、ちょっと待ってください‼ 訳がわからない、面接とかは!?」
(牧場長)「んなもんねぇよ」
さくらに振り返ることもせず、牧場長は奥の小屋へと消えていき、ただ訳がわからないさくらは呆然と一人立ち尽くすばかりだった。
しかし、ただ立ち尽くしていてもしょうがないので、言われた通り事務所の更衣室へと向かい、そこで渡された着替えを広げたのだが…
(さくら)「……また「ツナギ」かよ…」
勇次から奪ったツナギといい今回のツナギといい、この世界に来てからやたらとツナギに縁があるようだ。
さくらは嫌悪な顔をしながらも、渋々着替え始めた。
一方その頃、学校にいる勇次の方は―
(勇次)「ふあぁぁ~…」
気の抜けたアクビをする勇次の席は、窓際の後ろから二番目で、春の優しい日差しと、柔らかい風が眠気をより一層高めていた。
(勇次)「ああ… 平穏だな…」
眠気眼にそう思うのは、ここならば(学校)さくらの身勝手な発言にストレスを抱えることも、さくらの強烈な剛拳にダメージを負うこともない、
まさに安全地帯なのである。