「おい。誰でもいいから正月飾り買ってこい」


伊東が去り掃除が着々と進む中、今度はジャラジャラと金子の音が楓たちに近づいてきた。

この時期にも関わらず裸足で廊下を闊歩する土方歳三である。



「どうせ暇なんやからあんたが行けや」

「よし!お前だ赤城」


間髪入れず土方の指名を受けたのは楓。機嫌が悪かったとはいえ今になってなにも言わなければよかったと後悔していた。

そこに畳み掛けるように土方が

「拒否は許さない。副長命令だ。しっかり屯所に合ったの買ってこねーと許さねーぞ。
あと安いの買って浮いた金で自分の物かったりでもしてみろ。切腹だからな!」

「職権乱用!!ええやんご褒美くらい買っても!」


「大事な隊費なんだよ馬鹿!さっさと行け!」


相変わらず会えば喧嘩になる二人に慣れている隊士たちはもう誰も突っ込まないし気にもかけない。
黙々と掃除をしている。


「ったくやってられへんわ!」


ぶつぶつ言いながら土方から金子を分取り粗い足音を立ててハタキを放り投げた。



「くすくす!楓はいつまでも学習しませんねー」


「ほんとだよな。黙ってればいいのによぉ」


沖田と原田が顔を見合わせて笑っていると部屋の奥からカタンという音が聞こえてきた。



「あれ?平助?」



背後からの沖田の呼び掛けに部屋を出ようとした藤堂の体が強ばった。



「どこ行くの?」


厠の方向でも藤堂の部屋の方向でもないその出口に沖田は首を傾げる。


「ごめん!俺もちょっと抜けさせて?鍛冶屋に刀出しててさ。
今日取りに行かないと三が日明けるまで取りにいけなくなっちゃうから」


振り返って顔の前で手を合わせる藤堂に原田が感心したように、

「こんな年の瀬まで刀いじってくれる鍛冶屋があるなんて珍しいな!今度俺にも教えてくれよ!」


と手を降って見送る素振りを見せた。


「ああ。ありがとう。じゃあ、ちょっと行ってくる」


「…」



三人のやりとりを終始黙って見ていた永倉だったが、どことなく違和感を感じ顎を擦った。



「何だか変な気がしますね」


それは沖田も感じ取っていたようで、永倉の隣に並び藤堂が消えた方を暫く見続けていた。