「あーぁ…アホがいる」


「知らないふりしようぜ」

沖田と伊東の回りから徐々に隊士たちが距離をおいていく。無論、永倉と原田もだ。



「これはこれは沖田君。君も大掃除に参加していたのですか?」


伊東はにこりと微笑み沖田に問いかけた。


「ええ!隊長だって隊士ですからね!毎日お世話になっている屯所に感謝して身分関係なくちゃんと掃除しなくては!」

我ながらいいこと言ったと言わんばかりの顔をする沖田。


「うむ。素晴らしい心掛けです。
私はてっきり監督をしているのかと思っていました。いや、大変失礼」


ふふふと扇子で口を隠し笑う伊東に吊られて数人が笑いを堪えていた。



「では、私はこれで失礼します」


すっと沖田の横をすり抜け伊東は扇子で手遊びをしながら八木邸を去っていった。



「私なんか笑われるようなこと言いました?」


鈍感な沖田も流石に最後の伊東の意味深な笑いは引っ掛かったようだ。


「お前は皮肉を言われたんだよ」


永倉が気がついてくれてよかったと言わんばかりに安堵の息をついた。


「皮肉!?」

そんなことを言われた覚えのない沖田の声は当然裏返った。


「監督してたと思ったってのは何にもしてないで遊んでたと思ったってこと」


「…えー!?そんなぁ酷いですよ」





「なんやうっさいなぁ。寒いんやからはよ終わらせて部屋籠ろうや」



「あ、楓」



大広間を突っ切ってハタキを右肩に担いで不機嫌そうに登場したのは茶髪を一括りにした楓だった。
寒さのせいでいつもの倍以上機嫌が悪そうである。


「ほら新八さっさと障子はり!さの、床拭け!平助、なにぼさっとしとんねん!畳はけ!」



「…」



「…平助!!?」


「え!?あ…うん!わかってるよ!」


楓の二度目の苛立った声で漸く反応した藤堂は急いで手を動かし始めた。


「ったく正月ぼけにはまだ早いで」


そうぼやいた楓は自らもハタキを動かし始めた。