「はい。これでもう大丈夫」


「おぉ!すごいで総長!壊れる前よりしっくりくるわ!!」


カランカランと玄関から下駄の小気味良い音とはしゃぐ声が聞こえてくる。


「ははは。それはよかった!」


気の強そうな少女の声と総長の優しい声に齋藤の足は自然と玄関へ向かっていた。



「…赤城君、さっきは助かったよ」


山南は口ごもりながら赤城に会釈した。


「何がや?」


礼を言われるようなことをした覚えのない赤城は当然首を傾げた。



「…いや、気にしないでくれ。じゃあそろそろ私は戻るよ」


「あ?…ああ。おおきに!」


微かに焦りの表情を浮かべて足早に立ち去ろうとする山南にますます疑問を抱いた楓だったが、敢えて引き留めることはしなかった。


「……なんや気になることでもあるんか齋藤せんせー?」


山南の足音が完全に聞こえなくなった頃、楓はしんと静まった玄関で声を発した。




「…それ、そっくり君に返そう」


玄関入って直ぐの居間を隔てた通路の影からすっと現れたのは齋藤だった。


「おおありやな」


左腰に差した大刀を摩りながら楓は齋藤の問いに答える。


「一族だの同郷だの同門だの…群れるってのは嫌やな」


「君だって新撰組という群れに所属している」


「そうやな。だからこんな色々ないざこざに巻き込まれんねん」


「いざこざ?」


楓は無事に元の姿に戻った下駄で屯所の門へと歩き出した。


「参謀さんがやんちゃせんようちゃんと見といてや」


「…ああ」


斎藤は遠ざかる小さな背中に不気味さを感じていた。