「山南さん取り込み中なら出直そか?」


楓は玄関へ向かうために立ち上がった山南に余裕の笑みを浮かべながら尋ねた。

「いや、大丈夫だよ。急ぎの話ではないから…」



そして返ってきた答えを今度は満足そうな笑顔で受け止めた。


「そうか。じゃあお願いするわ」


伊東に目を合わせないようにして部屋を出た山南に続いて楓は退室していった。

「伊東参謀、えらい申し訳ないな」


と、楓はわざとらしく言い残して山南を伴い部屋を去っていった。


山南の部屋に一人残された伊東は二人の出ていった襖を睨み付けていた。
正確には楓の残像に向かってだ。



「……赤城楓」



一文字一文字噛み潰すように小さく呟いた伊東は、目を閉じて心を落ち着かせる。


そして静かに総長室を去っていった。