俺は出会った時から完全に魅せられていた。


「先生!今日も講義ご苦労様でした」


「ありがとう藤堂君」


無駄の無い所作で俺の出した茶を飲む。だが隙は一切無い。
優雅でありながらも常に緊張感を保っている。


「驚いたよ。農家や商家の出身者が大半だとは聞いていたが…まさかここまで無知だったとは」


「先生の講義を聞けばきっと文学の才能に長けた者が現れましょう」


「そうだといいが」



そう言うと先生は何か思い立ったようにゆっくりと立ち上がった。


「藤堂君。私は山南さんのところに行ってくるので失礼するよ」



「あ……はい」


失礼すると言われた時点で着いてくるなと言われているのと同じだ。



俺だって先生のようになりたい。

先生に頼りにして欲しい。

膝に置いた拳にぎゅっと力を入れて襖の閉まる音を聞いていた。