彼女は、母親だ。

母親である女性のことが、気になって仕方がない。

「航」

父親に名前を呼ばれ、俺はハッと我に返った。

「お前、この後で何か用事があるか?」

そう聞いてきた父親に、
「――うん…」

何故だか知らないけど、俺は首を縦に振ってうなずいてしまった。

「母さんのことは俺が面倒を見るから、用事があるなら急ぎなさい」

そう言った父親に、
「――わかった…」

そう返事をすると、俺は病室を後にした。

別に、これと言った用事なんて特にないのに。