事務所みたいな匂いの車内が
比奈が乗って来た途端に
甘い香りで充満して行く



「 …こんなに誰が食うんだよ 」


ケーキ店の名前がプリントされた
チョコレート色のビニールバッグ

1ダース位詰まっていそうなそれを見て
助手席に座る山瀬が、眉をひそめた



「 いいじゃん! 皆で食べれば
山瀬なんか、そんな事言って
皆の中で一番甘い物、好きなくせに〜 」



「 甘いっていえば

…伊藤、比奈村が盲腸になった時
『盲腸は、オナラすると治る』
って思い込んで

手術当日、
『これで手術しなくてすむし!』とか
焼き芋大量に持って来てたよな 」



山瀬と那智

普段はお互い、
あからさまに避けあっている二人

同じ車内で
居心地悪そうにしていた那智が
それを聞いて、思い切り吹き出した


「 どんだけ馬鹿なんだよ! 」



比奈も、思い出し笑いから
止まらなくなって、自分の腿を
パンパン叩く

運転手さんまで吹き出して
山瀬に慌てて頭を下げ

「 いや 」と言いながら
山瀬も口元に、拳をあてていた





そして