アルミナはふわりふわりと実体化させた魔力の光をもてあそんでいた。
幻魔の一族は滅び、代わりに幻獣と人をつなぐフラクタルな子供達が生まれた。
幻獣であり、人である、フラクタルチャイルド。
その原初αの子供として、為すべきことがある。
他の24人のフラクタルチャイルドを探すこと。
幻獣界とフェアルーンの均衡をくずさないこと。
その二つの世界をつなぐ橋となること。
アルミナはそっとため息をついた。
女帝の役割をどうするか。
この地位だって、αとしての役割をこなすためには必要なものだ。
それならここを離れるわけにはいかない。
だからこそ、ラディウスとクルーエルに闇の幻獣王をどうにかするように頼んだのだが……。

「お姉様……」

そうだ。ラディウスのこともあったんだ、とアルミナはぼんやり思った。
髪が伸びて、隻眼で自分の身長ほどの剣を軽々と振るうその姿は、アルミナが幼いときにあこがれたラディウスそのものだ。
否、あのときはルナと名乗っていたっけ。
あの長い髪が羨ましくて、私もあれからずっと髪を伸ばしていたけど、王子だってことを知ったときものすごくショックだった。
切ろうと思ったこともあったけど、そのたびにルナの言葉を思い出してやめた。

『闇色?違うよ。それは濡れ羽色っていうんだ。美しい黒だよ』

幻魔の一族は皆黒髪で、フェアルーンには無い髪色だった。
不吉だと言われたこの髪を、ルナことラディウスは美しいと言ってくれた。
そこで、はたと気づいた。

「そうだ。染料が必要なんだ」

ラディウス、というより、王族の髪色も特別な色だった。
銀灰色。その髪の色は王族の証だ。
ただ、それを知っているのは王族と皇族。
そしてその臣下だけだろうが。
でも民の中にそれを知ってる人がいないともかぎらない。
アルミナは染料の入った箱を開けて、いくつかのビンを取り出した。
――何色が似合うだろう。赤、白金、茶、金、空色……。
アルミナは少しだけわずらわしいことを忘れて楽しんだ。