意外にも、クルーエルはちゃんとした服を選んでいた。
派手ではないが、その緋色の髪に栄える自然色でまとめてある。
渋めの黄緑色の半袖のジャケット。
襟元だけ黒い白のワンピース。
そして深緑の綿素材のズボンに、ブーツ。
おおむね旅装としては常識的なところだとラディウスは思ったが、なにか違和感のようなものも感じた。

「……ん?」

「どうしたの?」

「そんなペンダント、持ってたか?」

首には紅玉のはまったペンダントがぶらさがっていた。

「あったよ」

「……ふうん」

ラディウスは他にも違和感を感じて、クルーエルをじっと見つめた。
半袖のジャケット。
モノクロのワンピース。
深緑のズボン。
ブーツ。
なにかが足りない気がした。

「んん……あ、そうか」

ラディウスは突然店に戻った。
クルーエルは首をかしげてラディウスの後を追った。

「ほら」

クルーエルが店に入ってすぐ、ラディウスがワンピースと同じ色合いの二枚の布をクルーエルに差し出した。

「これ何?」

「袖だよ」

「袖?」

「二の腕にこの黒い所を嵌めるんだ。荒野の熱と毒砂から腕を守ってくれる」

クルーエルはそれを嵌めて腕を前に突き出した。

「……大きい」

袖はクルーエルの指先まで隠して、少し垂れ下がっていた。

「いや、それでいいんだよ」

クルーエルはしばらく腕をぷらぷらと揺らしていたが、やがて納得したのか腕を下ろしてラディウスを見上げた。

「じゃあ、幻――」

クルーエルの言葉は外からの轟音にかき消された。