たった一本だけの桜の下で、お弁当を広げた。
夜の空に、薄桃色の花はよく映える。
丘の上からは、たくさんの桜も見渡せた。
……意外と、ここは穴場かも。
「夜桜デートだね。」
「散歩っ!」
すかさず否定しても、ジンは表情一つ変えず、おにぎりを頬張っていた。
そんなジンの顔を見つめながら、私は思う。
ジンと一緒にいると、居心地がいい。
私は、その居心地の良さに甘えてしまう。
………じゃあ、何でこんなに居心地がいいんだろう?
それは、私とジンの間に一定の距離感があるからだ。
決して踏み込もうとはしない領域。
お弁当を食べ終わった頃、私はジンに尋ねた。
「……どうして何も聞かないの?」
私の言葉に、ジンは首を傾げる。
「桜助の事にしても……例えば、私が高校生の分際で、あんな高級マンションに一人で住んでた事とか。」
ジンは黙って聞いていた。
それから、少し考えてから、口を開いた。