マンションのエレベーターに乗り込み、扉が閉まりかけた時だった。
「すみません!」という男の声と共に、閉まりかけた扉の隙間に手が割って入ってきた。
再び、扉が開く。
そこには、息を切らした男が立っていた。
長髪の黒い髪。
ジンと変わらないくらいの長身。
モテる男のオーラを、これでもかってくらい醸し出している。
二十代…前半?いや、後半だろうな。
男はエレベーターに乗り込むと、壁に凭れて大きく深呼吸をした。
「何階ですか?」
何気なく尋ねた私に、男は
「51階です。」
と答える。
51階……同じ階の住人か。
男は色っぽいというか、艶っぽいというか、とにかく妙にイイ声をしていた。
「同じ階ですね。」
「えっ、51階の方ですか?」
「はい。」
正直、どうでもいい世間話で間を持たせる。
「スゴい荷物ですね。」
「え、あぁ。」
男は、私が持っているスーパーマーケットの袋を見て言った。
ニコリと微笑んで。
いわゆる営業スマイルというやつだろうか。