足音はカフェの軒先の前で止まり、その中へ入る。
私は俯いていた。
私の隣で、見知らぬ誰かは息を切らしていた。
何気なく、その誰かの足元を視界の片隅に入れて、私は驚いた。
裸足だったのだ。
思考が停止してしまった私の頭上に声が降る。
「すごい雨ですね。」
私は顔を上げる。
そして、初めて“誰か”の横顔を見た。
男は、空を見上げていた。
黒い髪は濡れ、胸元が大きく開いたVネックのシャツも雨を受けて透けていた。
春だとはいえ、外に出るには薄着すぎる。
ましてや、裸足。
見上げた男は背が高く、足が長い。
小柄な私との身長差は、30センチはあるんじゃないだろうか……。
可笑しな男、なのに私は目を奪われていた。