そして、ようやく目の前の扉がカチャリと音を立てて、
沢崎さんが顔を覗かせた。
「どうしたの?」
戸惑っている沢崎さんが、そう言い終わらない内に、私は扉に手をかけて無理やり室内へ入る。
「ジンっ!どこっ!?」
図々しく身勝手に奥へ進んで、
思わず立ち止まる。
瞳に飛び込んできた光景に呆然とするしかなかった。
部屋の中には、
テレビも、テーブルも、ソファーもない。
それは、生活感のない部屋とか、そういうレベルじゃない。
何もないのだ。
固まっている私の後ろで、沢崎さんが口を開いた。
「驚いた?俺は、ここを借りてただけで実際は住んでないからね。」
「…………。」
「まぁ、でも、それも今日でお終い。
もう、ここにいる意味はないからさ。」
「…ジンは、どこですか?」
そう尋ねる私に、沢崎さんは冷静な瞳を向ける。
「ここには、いないよ。」
「じゃあ、どこにっ!?どこにいるのっ!?」
沢崎さんのシャツの襟を掴んで詰め寄る私は、まるで頭に血が上っているようだった。
沢崎さんは抗うわけでもなく、ただ私を見下ろしている。