「でも、花束なんて怒られちゃうかな?」
「はい?」
「カレシ、に。」
沢崎さんは、からかうような口調で言った。
「カレシなんていません!ペットはいますけど…。」
「ペット?」
「はい。犬なんですけど。」
「……名前は?」
「え…あ、ジンです。」
そう答えると、沢崎さんは急に真顔になった。
一体、何だって言うんだ??
「あの……?」
「あ、いや。……そっか、ペット、ね。」
そう言うと、沢崎さんはふっと微笑した。
「“犬”なら問題ないよね?」
「へ?」
沢崎さんは、さっと玄関先へ踏み込むと私を抱きしめた。
「なっ!!?」
私の背中はピッタリと壁にくっついて逃げ場がない。
沢崎さんは壁に手をついて、私を見下ろす。
「カレシがいないなら、俺なんてどう?」
「はっ!!?」
パニックだった。
完全にパニックだった。
初対面の時といい、この男は一体何なんだ!?
飼い主はいないのか!?
いるんだったら、『狂暴につき、危険』とか書いとけよ!?
つーか!その前に野放しにしてんじゃねぇよ!!
「とりあえず、キスから始めてみる?」
「ちょっ!ちょっ!待っ!!」
逃げ場がない。
もう、こんなのムチャクチャだ。