生意気なくせに地元の人気者らしい。
 疾風は黄色い声援に手を振って応えている。突然自転車に飛び乗ると、ウイリーをしてスタートライン上で停車した。ゆっくりと前輪を下ろして、そのまま両足ペダルに置いたまま止まっている。
「準備はよろしいですか?」
「オッケー。余裕で抜きますよ。42秒台で走ります」
「おっと、予告ホームラン的宣言。風間君盛り上げてくれます。それにしてもなんというバランス感覚なんでしょう。足が地面に付いていないですよ」
疾風びいきのアナウンサスが続く。
僕はもう早くレースをしてくれよ。と、うんざりしながら聞いていた。
「ヨーイ、スタート」
疾風はダンシングでスピードを上げ、第1コーナーに入る時にはトップスピードになっていた。コーナー手前でアウトにラインを変えて、コーナーのRが一番きついところでインに入る。そのままのスピードを維持しながらアウトに抜ける。芸術的と思えるコーナリング技術。直線になるとダンシング。最後はバテて少しスピードダウンしてゴールした。
「風間疾風君のタイム、42秒212。風間君の優勝です。これでこのカテゴリー2連覇達成です」
風太は声も出ずに疾風の走りを見ていた。
「負けちゃったね」
僕は風太の顔を見た。風太の目には涙が溜まっていた。僕はなんと声をかけていいのか分からずにただ見守っていた。
「ふん、負けて泣くのか。弱いな、お前。そうか、今日の朝練でぶっちぎりをしてやった。ノロマロードのアマちゃんか」
「生意気言ってじゃないぞ」
隼人が怒鳴ると、「オレの相手だから」と風太が隼人を押さえた。
「今度は負けない」
「今日は遊び。僕の得意は30キロくらいの個人タイムトライアルとスプリントだから。今日より速いよ」
「オレの得意はスプリントだ。スプリントじゃ負けないからな」
「そんな負け惜しみ聞きたくないね、泣き虫、弱虫君」