隼人は見るところが違うなと僕は思った。
 「フン、筋肉ならオレのがある」
風太は腕の筋肉を盛り上げる。
「お前馬鹿だな。自転車で走る為の筋肉だけ付いていればいいのさ。必要ない筋肉は返ってスピードダウンさせるのさ」
「あっ、さっきのガキ」
総合受付で疾風と呼ばれていた生意気そうな少年だった。
「口では何とでもいえるぜ、頭でっかち」
疾風は隼人の言葉をせせり笑った。
「誰に向かってほざいているわけ? 僕は去年低学年クラスなのに高学年クラスに出場して優勝しているんだけど」
「お前は4年生なのか?」
 「そうさ」
 「背が小さいな」
 風太が呟いた。
 「背が小さい方が空気抵抗が小さくなるから有利なのさ。そんなことも知らないんだ」
 こんな言い合いをしている間に、次々とレースが行われていた。
 「4年生、山城隼人君。スタート順備お願いします」
 「行ってくる」
 「頑張れよ」
 「ぶっちぎれ」
 「お前の無様な姿を拝みに行くか。楽しみだ」
 疾風はニタニタ笑いながら去って行った。
 隼人はスタートラインに立ち、スタートの合図を待つ。黒板に暫定1位のタイムが表示されていた。50秒495。タイムの下に『去年の優勝タイム51秒ジャストを超えました』と、書かれていた。
 ほぼ優勝は確定したというような雰囲気になっていた。
 「ヨーイ、スタート」
 カゴの一番先に指をかけてスタートした。バランスを崩して転びそうになった。すぐにハンドルに持ち替えてスピードが乗って来た時に片腕ずつカゴに持ち替えて走った。隼人の初ゼロヨンレースタイムは55秒003だった。
 隼人と同じミスしないように始めから最後までハンド