「最近自転車に乗っていないの?」
「うん、僕の自転車が盗まれちゃって。風太君と隼人君が遠慮してあまり自転車に乗らないようにしてくれている」
「買えばいいじゃない」
「うん、そうだけど…」
僕は何と言っていいのか分からなくなって俯いた。
「あっ、そいえば琴ちゃん最近絵は描いてる?」
急に思い出したように、唐突に聞いた。
「絵は何かしら毎日描いてるわ」
「私の絵を見せてあげるわ。来て」
琴ちゃんは僕の手を取った。
僕の胸はカンカンカンと、早鐘がを打っている。100メートル走を全力で走った時よりも早い。
僕は2階にある琴ちゃんの部屋で、額に入れてある絵やスケッチブックに描いてある絵を見ていると、その絵の世界観が心に浮かんできて、物語が出来ていく。絵に生命が宿っているようだ。
「うわ。すごい」の感嘆詞しか出てこない。
「流ちゃん、もう少し違った言葉はないの?」
「ごめん、凄過ぎて言葉が出てこない。キャラクターが額やスケッチブックから出てきそうだね」
「ありがとう」
僕は琴ちゃんの笑顔を見てまたドキッと胸が痛んだ。
リビングに下りると、クッキーが並べられていて風太と隼人がポリポリ食べていた。
「風太もう終わった? 写せた?」
「まだ。今休憩。おばさんがおいしいクッキーを出してくれたから」
「あっ、私の手作りクッキー食べたのね。駄目って言ったのに」
「なかなかうまいぞ」
サクッ、サクッと口の中で良い音がしている。風太の手には2枚ずつクッキーがあった。
僕もお皿に盛ってあるクッキーを食べた。
「また3人が自転車に乗っている絵を描きたいな」
琴ちゃんが3人の顔を見る。
「なんで」
隼人がぶっきらぼうに言った。
「だって3人ともカッコイイから」