「あの、自転車はどうしたんですか?」
 「えー、それが、実は。ごめんなさいね」
 隼人のお母さんは「ごめんなさい」の一点張りで自転車がどうなったのか何も言わない。
 そんな時にロードのお兄さんが走って来て、3人の前で止まった。
 「おう、君達。ごめんな。一歩遅かった。オレが待って!と叫んだ時には…」
 一度言葉を切った。
 「叫んだ時には?」
 3人は繰り返した。まるで、テレビのクライマックスシーンがCMのせいでおあずけになった感じだ。僕は早く早く。と思って次に出てくる言葉を待った。
 「自転車は」
 ロードのお兄さんは、また言葉を切る。
 「ちょっと、からかっているんですか? 早く話して下さいよ」
 僕はムッとして言った。
 「まあまあ。ゆっくり話すから」
 ロードのお兄さんは楽しそう。
 「ゆっくりなんて嫌です。僕達小学生なんですよ。小学生がこんな深夜に、こんなところに出ていたら警察に補導されますよ」
 あまりにもゆうちょうに構えているロードのお兄さんに怒りがこみ上げてきて、その怒りをぶつけた。
 「流星も怒るんだな。怒っているの初めて見た」
 風太が小声で隼人に話している。隼人は僕の顔をチラリと見て頷いた。
 「もういいです。聞きたくありません」
 僕は家に帰る道をトボトボと歩きだす。
 「海の中へ、ドボドボドボ」
 「おばさん、本当に海に投げたの?」
 僕は戻って隼人のお母さんを問い詰めた。
 隼人のお母さんは「うん、うん」と、顔をひきつらせて頷いた。
 「マジ? おふくろはやりすぎなんだよ」
 原因の根源が偉そうに口を開いた。
 「隼人君が素直に謝っていれば、こんなことにはならなかったんじゃないのかな」
 僕は呆れてしまった。