僕は何と言っていいのか分からなくなった。
 「寝よう」
 その場をごまかすように言った。
 「あーあ、眠くねぇー。自転車で走りたい。今から」
 「自転車なんて乗れないよ。明日も。医者に止められているんだよね」
 「あんな藪医者の言うことを真に受けるほどお人よしじゃない」
 それを廊下で聞いていたらしく。ガチャと戸が開いた。
 「あんたね、医者の言うこと聞けないんだったら、今から自転車海に放り投げてくるわよ」
 隼人のお母さんが仁王立ちしている。
 「謝れよ」
 僕と風太は小声で言った。
 「嫌だ」
 「お前の母ちゃんなら今すぐ海に投げ捨ててくるって。謝れって」
 風太もいつになく積極的に謝罪を勧めている。
 あまりにも片意地を張っている隼人の頭を押して、強制的にお辞儀をさせた。
 「すみません。ごめんなさい」
 僕と風太は声を合わせる。
 「隼人がその気なら仕方がないわね」
 そう言い捨ててリビングから出ていくと、玄関を開ける音がした。
 「ヤバイって。本当に捨てる気だって」
 僕はテンパっている。
 3人は隼人のお母さんの行動をこっそり見に行った。自転車置き場から一台のママチャリを車に積んでいる。
 「ねぇ、やっぱり本気だって。謝った方が良いって」
 僕は拝むように言う。それでも隼人は謝る気はなさそうだ。
 車にエンジンがかかる。自転車はトランクに突っ込んであるだけで、落ちないように縛ったりはしていないようだった。車が駐車場から出ていく時に電球に照らされた自転車の名前は『矢吹流星』と書かれている。
 「僕の」
 僕は大声で叫んだ。『僕の』だけでは、何がなんだかわからない。車はそのままゆっくり走りて行く。
 僕は「僕の自転車です。間違えています」と、叫びな