だ。
 「まあまあ、4位と6位の選手の良い争いをしていても仕方ないだろう。僕の予想通り、カンチェラーラがステージ優勝で総合優勝。マイヨ・ジョーヌを着てレースに出るんだから」
 風太は本当に得意げに話す。ピノキオの鼻のようにどんどん長くなっていくんじゃないだろうか? というより、鼻よ伸びろー。
 「終わったわね、もう寝ますよ」
 隼人のお母さんがテレビのスイッチを消した。
 「まだ終わってないじゃんか」
 隼人が怒っている。
 「あんたね、今日救急車で運ばれた身でしょう。こんな時間まで起きていて、お母さんはツール・ド・フランスを見る事なんか反対だったのよ。それをあんたが泣いて頼むから許してやったのに、まだ終わっていないだ? もう一遍言って御覧なさい。えっ?」
 隼人はネコのように首襟を掴まえられて持ち上げられている。ビリッと服が破れる音が聞こえた。
 「下ろせ、鬼婆ぁ」
 隼人はお母さんの顔を睨みつけた。
 「親に向かって、鬼婆ぁ? もう一遍言ってごらん」
 お母さんは、バスケットのボールのように隼人を片手でつるしあげたまま上下に振る。ビリビリと布が裂ける音が聞こえている。お母さんの耳には届いていないのか?
 「あの~」
 僕は声をかけた。
 「何?」
 ドスの利いた声で振り向く。
 ビリビリビリ。ドタン。
 「いって~」
 隼人の服が破れて床に落ちたのだ。
 「自業自得よ。早く寝なさい。3人とも」
 そういうとリビングから出て行った。
 「隼人の母ちゃんは最強だな」
 肩を震わせて風太が言った。
 「でも、あれは隼人君がまずいよ。言いすぎだよ」
 「流星は、おふくろの肩を持つのかよ」
 「いや、そういう訳じゃないけど…」