「ツツジねぇ・・・。つうか、何で女なのに僕なんだよ。」
「自分の呼び方は自分で決める。私とかあたしにすると、何か面倒臭いから。」
不思議な奴だ。
他の奴らとは違うと俺は思った。
「あ、ここだ。」
個室で明るくついた電気は、何故か安心感を膨らませた。
ベットまでツツジを運んでやると、ツツジは笑顔で礼を言う。
笑顔はフワリとして、大きい目を余計に際立たせた。
ベットに横たわると、ツツジが外を眺めた。
「こんな夜なのに、東京は電気がついてるね。」
「え?お前ドコ出身だよ。」
・・・・
「岐阜県らしいよ。」
らしい?まるで後に聞かされたような口調に、俺は首をかしげた。
「岐阜からお父の生まれた東京に来て、そしたらお母と2人で車に乗ってた時に事故ったんだってさ。暴走した車に。」
どうしてこんな後で聞いたような言い方なのかが異様に気になる。
「で・・・どうなったんだよ。」 ・・・・・・・・
「・・・お母が死んで、僕は生きてたみたいだけど、全部忘れちゃった。」
この言葉で、どうしてツツジが聞いたような口調になっていたのかが分かった。
コイツは・・・
「キオクソーシツなんだってさ!」
記憶喪失・・・。何らかの原因で記憶を無くしたのか。
「目覚ました時は何も言えなくて、知識も記憶も無くしちゃってさ。知識の方は自然に戻ってくるって言ってたけど、記憶の方はもどらないってね。」
まるで何事も無かったような、他人事の様な言い方だった。