「あんなに曖昧なんじゃ声の掛けようがないだろ。
 第一に、音楽の趣味志向が分からない。 
 第二に、アンタの担当楽器も分からない。
 第三に、どの程度のレベルを求めているのかも分からない。
 第四に――」

「もう結構」

延々と続く冷静な分析に、私の頭の中の何かがぷちりと音を立てた。
私は稲葉くんの話を遮って立ち上がる。

「――へぇ。
 随分だな。
 アンタが意見を求めてきたから答えてやったんだろ? キリンのくせに生意気な」

稲葉くんの声が途端に低くなり、冷たいものにかわったことがさらに私を苛立たせた。
そもそも、私は首の長い動物を連想させる自分の名前があんまり好きじゃない。

それをわざわざ口にするなんて。