それなのに、足がぴくりとも動こうとしない。
頭の中の伝達機能がまるで働いていないかのように、動かす事が出来ないのだ。


「俺だったら犯人を怨み、見つけ出し、復讐をする。」


今や、不敵に笑うその男の目を見つめる事しか出来なかった。

「お前のその目は嫌いじゃない。俺の好む憎悪の目だ。」


男の細く長い指に顎を掬い上げられて、それでも私が反抗しなかったのは、


「やられたらやり返せ。」


その科白に心が信じられないくらいに揺さぶられたから。







「犯人に抱腹を。」




私がそう告げたのか、男がそう告げたのか、それは分からなかったけれど

もう、迷いはなかった。