積もっていく雪達を眺めていた私の視界に映ったものは、真っ黒な革靴だった。

「憎いか。」

その地面を這うような低い声に、私はゆっくりと視線を上げた。
そこには黒いスーツに黒いコートを着た男が立っていた。

男を纏う全てが黒だった。



「天宮(アマミヤ)の娘だろう?」


その問いに私は一度頷いただけで、再び雪へと視線を戻す。
誰だか知らないこの男に良い印象を持つ事が出来なかった。

だって、両親を殺した奴らも全身が黒に包まれていたから。



「憎くて仕方がないんだろう。」


その言葉に私は小さく息を吐く。

「別に。」

「知りたくないか。」

「…」

「お前の両親を殺した奴を」


その科白に私は静かに目を閉じる。
何故だかこれ以上聞いたらいけない気がする。

なのに、男は話すのをやめない。


「このままだと殺人犯は見つけられないだろうなあ。手掛かりもない。この事件は葬り去られて終わりだ。なあ、何故お前の両親が死ぬ必要があったんだろうなあ。」

頭の中に警報が鳴り響く。
今直ぐこの場を後にして建物の中に戻り、私のことを可哀相だと嘆き、しかし結局は他人事だと目を背ける大人達の元へと戻るべきだ。