「ううん、大丈夫。ありがとう。」


私がそう言うと、夏男は照れくさそうに笑った。


そうだ、謝ろう。妖精に!私はそう意気込み、席を立った。


「よ……ヒカル!」


いつも“妖精”と言いかけそうになる。


妖精は、教室を出ようとしていたらしく、一度ドアの前で立ち止まった。
少しだけこちらを見て、視線を落とし、そのまま何も言わずに去って行った。


やっぱ、怒ってんのかな…。



「ヒカルー!」


私は廊下に出て、妖精を呼んだ。
妖精のもとに駆け寄っていき、無理矢理隣を歩く。


「この前は…ごめん。無神経な事言って…」


妖精は、こちらを見て、なんとも言えない顔をしていた。


「誰にも言わんし、妖精が気にするんやったら、知らなかった事にするから。」


「……。」


妖精はまだ、口を閉ざしている。
のり姉の事…本気、やねんな…。



「…違うんだ。」


いつもより低いトーンで、妖精は口を開いた。


「怒ってるとかじゃなくて…恥ずかしいだけで。」


「恥ずかしい?なんで…」


あ!しまった。
またやってもた。


「あ、いや…何も恥ずかしい事なにのにーと思っただけで、深い意味は無いねん、うん。」


必死でフォローする私。
妖精は少し笑った。