水たまりを避けながら、追いかけてる。わたしが追いかけてくると思って、わざと人混みに紛れていく。


「マサトさん、ちょっと待ってください」



声は届いてるのか、聞こえてないのか、わたしの声は人混みに掻き消されてる気がする。



やっと追いついたと思えば、また人混みではぐれる。マサトさんの背中をまた目で追いかけて、歩くスピードを速める。


「ちょっと待って...」


マサトさんの後ろに手を伸ばしてみる。掴んだのは、服の裾。これでひとまず安心。



服の裾を掴んでいるのに、後ろを振り返ってわたしを見ようともしない。さっきと同じように、歩いていく。



赤信号で止まるマサトさんの隣に、チャンスだと思って一歩前に出る。左を見ると、こっちを気にかけない様子。



「どこに行くんですか?」


「どこも行かないよ。ルイちゃんの傍にいる」



さっきまでは見向きもしなかったのに、わたしを見て微笑みながら言う。

そんなことをまたサラっと言うマサトさん。だけど、質問の答えになってない。



「そうじゃなくて」


赤信号が青信号に変わって、反論する前にマサトさんは歩き出す。一斉に人の波が動き出して、止まってるわけにはいかなかった。