足早にお店を抜けて、家へ急ぐ。今は何も考えたくない。
街にはやっと活気が出てきて、これから遊ぶ人があふれてる中でわたしは家へ帰ろうとしてる。
腕をいきなり捕まれて、反動で後ろを振り返る。
「前にもこうやって、逃げ出すルイちゃんを追いかけた気がする」
目を合わせたくなくて、俯いたまま。そうやってわたしを追いかけるから、わたしは逃げちゃうの。
君が追いかけて来てくれるのを、どこがで分かってる。
「離してください。わたしバイトがあるので」
人混みの中、立ち止まっているのはわたしたちだけ。周りがハイテンションなせいで、余計にわたしたちが浮いてしまう。
「どうして一人で逃げちゃうの?駆け落ちっていうのは、二人でしなきゃ意味がないのに」
また意味不明な冗談をサラっと言うメロンパン王子。
顔を見上げると、いつもの笑顔。一方でわたしは、作り笑顔をし過ぎたせいで顔が強張る。
「どうして追いかけるの?わたしはあなたと抜け出そうだなんて、考えてもないのに」
捕まえられたのは腕だけじゃない。さっきは反らされたはずの目も、がっちりと捕まえられた。
「どうしてって?ルイちゃんが気になるからかな?」
無邪気に笑うメロンパン王子は、捕まえてた腕を離した。
そんなことを言って、わたしがもう逃げないって思ってるの?
「マサトさん、からかうのは止めてください。あなたは亜海の彼氏じゃない」
わたしの心を戸惑わせないで。わたしには好きな人もいる。そんなこと言うなんて反則。
「本当ルイちゃんって面白い子」
そう言って、わたしを置き去りにして歩いてく。わたしがついて来ると信じて。