「聞きたいことあるんだけど」



龍くんが電話から戻って来ないうちに、聞いておきたいことがある。


龍くん本人に直接聞けないわたしは、輝くんが答えられると信じて。




「ん?知ってる範囲なら答えるよ」


「龍くんって彼女さんいるの?」


気になってたことが、口に出た。輝くんなら、知ってるはず。



「どうなんだろ。あいつ、よく分からないからな。ノロケたりしないしさ」


参考書をめくる音すら大きく聞こえる。予想外の回答に、返す言葉がない。



「たぶんいないと思うよ。少なくとも表側は」



あまりにも長い沈黙に、参考書から目を離してこっちを見る輝くん。


さっきから表だの裏だの、意味不明なことばっかり。


「うん、いないよ、いない。なんか中途半端なこと言って悪かった」


「こっちこそごめん」


きっと彼女さんはいないんだ。そう思っていたい。


久しぶりに出来た好きな人を、そう簡単に無くしたくない。



「輝くんって、意外と優しいんだね。百華に伝えておくよ」


「意外か。まぁ、余計なこと言わなくていいから」



そう言いながらも【百華】って言ったら、参考書が少し揺れたのをわたしは知ってる。


輝くんがそれだけ分かりやすいってことは、それだけ素直ってことかな。