「あの...」


メロンパン王子の背中を叩きながら、話しかけてたわたし。


「えっ?」

「もしかしたらと思って、最後の一個のメロンパン取っておいたんです」



まともに顔も見れなくて、トレイを前に出して顔は下を向いたまま。



「わざわざありがとう。まさかこんなサプライズあるなんてね」


微笑みながらトレイを受け取って、レジへ向かっていった。


「今日来なかったら、このメロンパンどうなってた?」



メロンパン王子が不思議そうにわたしに聞く。でもそんなこと全然考えてなかった。



「来ることしか考えてなかったので、メロンパンどうしようかなんて考えてませんでした」



架織先輩がさっきから、わたしのローファーを“今がチャンス”と言わんばかりに蹴ってくる。




「じゃあ俺って、覚えられてるんだ。しかもメロンパンを買う人って」



メロンパン王子とこんなに話すのは初めて。話すだけでこんなに嬉しい気持ちになれるんだ。



「いつもありがとうございます。また買いに来て下さいね」


とびっきりの笑顔でメロンパンの入った袋を手渡す。


「買いに来てより、会いに来ての方が来たくなるんだけどな」



やっぱり王子。そんなセリフが普通に言えるんだもん。


「特別扱いは別途料金がかかります」



わたしの冗談に笑うメロンパン王子は、“じゃあ追加料金払おうかな”と言いながら出て行った。


「ルイちゃんったら、わかりやすいなぁ」


架織先輩のニヤニヤ顔が続いたのは、言うまでもない。でも勘違いしてる。



王子は王子。

だから、たくさんの女の子が周りを取り巻いてるんだろう。


わたしだけの王子様にはならないから、恋はしない。メロンパン王子には。