「うわ…っ」

鳥肌が立つほど綺麗に俺に響く、奏でるこの音色は何だろう。
凜の楽しそうな表情。
唄うヴァイオリン。

「……すご…」

全身がひきこまれそうだった。
気を抜いたら涙まで出てしまいそうな。

でも奏でるその音は、途中で途切れた。
強い風に乱れる音。
思わず凜の手から離れ、カシャ、と風に流され少し遠くに落ちた弓を、俺は拾うことはできずに見送った。

「…凜?」

弓の離れた右手をぼんやりと見ながらも俺の声に反応して緩く笑う。

「…もう力入らないの、この手」

ふらふらと軽く振って、弓を拾ってから俺に近づく。
自分より背の高い俺を見上げるようにしながら目を細める。

「…もう弾けないの、ヴァイオリン」

荒い風に共鳴してヴァイオリンが鋭く響く、それは泣き声に聞こえた。