家に帰って、まず自分の部屋に行った。
早足だったのか、少し息が切れていた。
凜の顔を思い出そうとしたけど、どうもうまくいかなくて何度もため息を吐いた。

「凜」

視線が留まる事無く彷徨う。
自分が何を考えているか分からなかった。
ぐるぐると部屋の中を歩き回り、また大きく息を吐いて頭を振った。

「凜」

目を瞑る事無く忙しくまだ動く視線は、ドアの前に立つ兄貴を捉えた。

「兄貴」
「動物園の熊みたいだ」

すたすたと部屋に入ってきて、どかりとベッドに腰を下ろした。

「どうした」
「息がうまく吸えない」
「颯太?」
「凜が死んだ」
「え?」
「凜が死んだ」

兄貴の顔に一瞬戸惑いの色が浮かんだ。

「息がうまく吸えない」

繰り返して、またため息をつく。

「凜が死んだ」

頭の中がぐちゃぐちゃで、まだ顔は思い浮べられなかった。