そんな午後、水泳部の仲間が見舞いに来た
「よっ!恵理子 何サボってんだ?」
「バカっ。。。」
部屋に入って恵理子の姿を見つけるなり、いつものように明るく悪態をつく先輩にマネージャーが鋭く突っ込む
その声に恵理子はドアの方を振り返ると、声のした2人と一緒に小柳がいた
「あっ・・・」
「”あっ”じゃねぇよ 心配かけすぎ」
言葉を失っている恵理子に小柳は笑いながら言うと、恵理子に近づくなり頭を撫でた
そんな小柳の行動に先輩が思わず一言
「をぉっ!今日の春さんスキンシップ積極的ぃ~笑」
「たしかに・・・」
小柳の行動に感心してる先輩とマネージャーを横に、小柳は恵理子の横に座ると顔を見た
部活の仲間に会うのはプールサイドで倒れて以来だ
自分がどれだけ仲間に心配かけたかと思うと罪悪感に包まれた
「ん~だいぶ顔色良くなったな」
あまりにマジマジと近くで顔を見る小柳に、恵理子は遊園地の帰り車の中でキスされたことを思い出し恥かしくなった
「あっ恵理子照れてるぅ~相変わらず可愛いウブちゃんだねぇ~」
小柳に続き、先輩までも恵理子に顔を近づけると、恵理子の恥かしさはピークだった
恥かしさに思わず胸が騒がしくなる
頻発していた発作が治まりかけてた胸に再び感じる騒がしさ
恵理子は落ち着こうと深呼吸をすると三人を見た
「心配かけました もぉ大丈夫です」
そぉ言う恵理子の顔はプールサイドで見てきたのと同じ作り笑顔
「無理するなよ」
「・・・はい」
小柳が恵理子の作り笑顔を見抜いたように返せば、恵理子は一層作り笑顔を見せる
その顔色が最初に部屋に入ってきたときより青くなっていることに気づいたのは、恵理子がベッドに戻ろうとしたときだ
「恵理子 気分悪くないか?」
「えっ?」
「顔色・・・『バタッ・・・』
小柳が言いかけたのとホボ同時
恵理子は床に膝をついていた
「恵理子??」
「ハァ・・・ハァ・・・」
荒い呼吸をしながら苦しそうに胸を掴む恵理子
「だい・・・じょう・・・ぶ」
途切れ途切れに言うと眉間に皺を寄せ必死に酸素を取り入れようと深呼吸をする
「ナースコールしよう」
小柳が言うのとマネージャーがボタンを押すのはホボ同時だった
ピーピー
”どぉしました??”
「急に苦しそうに・・・」
”すぐ行きます”
スピーカーから聞こえるナースの声に小柳が応えると、落ち着いたナースの応答が返ってきてスピーカーが切れた
そしてスグナースが来た
「恵理子ちゃんどぉした??」
今にも力を失い床に倒れそうな恵理子の肩を叩いてナースは呼びかける
その呼びかけに恵理子は必死に目を開き何か言おうとする
「取りあえずベッド戻れるかな?横になろう」
小柳が抱きかかえるように恵理子をベッドに寝かせると、恵理子は首を左右に振った
それはナースが今まさに連絡をとろうとしていることへの拒否だった
ナースは恵理子の拒否を振り切ってPHSで平田に連絡を入れた
「病棟です 恵理子ちゃん急変です」
PHSを切るとナースは恵理子に酸素マスクをつけ、点滴を全開にした
「すぐ平田先生来てくれるから大丈夫だよ」
恵理子に言うとナースは見舞い客に今日は帰るよう伝えた
平田が医局から病棟に着くと丁度見舞い客が恵理子の部屋の前で心配そうな表情をしながら帰るところだった
そんな見舞い客を横目に平田が部屋に入ると、そこには落ち着き始めていたハズの恵理子が再び苦しそうにしていた
「どぉした??何があった??」
「それがお見舞いの方と話をしていたら急に・・・」
「恵理子ちゃん??わかる??」
平田の呼びかけに手に力を入れて応える恵理子
「酸素マスクだけじゃ苦しいの治まりそうにない??」
っと聞けば首を左右に振り、マスクの中で”大丈夫”っと口を動かす
平田は下瞼をさげ、首もとを探りながら恵理子の様子を見守る
どれくらい時間がたっただろうか
恵理子は落ち着きと共に襲ってきた睡魔に引き込まれるように寝入った
寝顔は平和だ
平田はそんなことを思いながら部屋を後にした
ナース室で恵理子のカルテ記載をしているとカウンターに男性の姿が目に入った
恵理子の部屋に駆けつけた時、廊下で村井と同じような目で心配していた男性だ
カルテを書き終え男に声をかける
「何か御用ですか?」
「恵理子・・・いや、新井さんの具合は?」
「大丈夫ですよ 落ち着いて寝てます」
ホッと胸を撫で下ろすように目を閉じる
「彼女とはどぉいった?」
平田が廊下で見たときから気になっていたことを聞けば、小柳は自分を責めるように話した
「部活のコーチをしてます 彼女をマネージャーとして引きとめたのも自分です こんなに具合が悪くなるなんて思ってなくて・・・」
「部活楽しいんですね 彼女の目の輝きは部活のお陰だと思いますよ」
「えっ・・・」
「引きとめたのは貴方かもしれない でも彼女は自分で決断した それくらい分かってます 大丈夫ですよ」
平田はそれだけ言うと再びナース室に入った
その夜、恵理子が目を覚ますことはなかった
胸の鼓動は規則正しく、でも弱かった
よほど無理をしていたのだろう
そして眠れていなかったのだろう
翌朝、回診に行くまでグッスリだった