「………これ。今日中に確認して提出するように」
「………………はい?」
すぐ間近で聞こえた声は想像していたものと全然違くて、声を発するのに時間がかかってしまった。
そして、僅かに重みを感じる手を見ると、いつの間にかあたしの手にはいくつかのファイルとまとめられた資料がのっていた。
「それ、今度の商品の宣伝の企画案。
前に渡したものと比べて、間違ってるところを直しておいてくれ」
「あ、はい……」
拍子抜けして肩から力が一気に抜ける。
なんだ、仕事か……。
資料を渡す、というのは本当だったらしい。
………当たり前か。
会社で、キスをしてくる上司なんていないよね。
あたしは、何を期待していたんだろう。
本来あるべき上下関係を今更ながらに思い出す。