部長が笑った顔なんて見たことない。
たまに愛想笑いをしているのを見かけることはあるけれど、それも明らかな愛想笑い。
普段仕事の用件以外で口を開くこともないから、彼のイメージは無口で無表情。
黒い瞳に同じ色の髪。
グレーのストライプのスーツなんて似合いそうなくらい、整った顔立ち。
だけど、本人は自分の見かけとか、自分がどれだけかっこいいのかとか多分考えてないんだろうなって思ってた。
いつも謙虚で仕事一筋の、バリバリのサラリーマン。
………そう思ってたのに。
この状況は、何。
あたしから顔を離して、二、三歩後ろに下がった部長はそのままイスにどっかり座り込んだ。
そして、その長い足を優雅に組んで、髪を書き上げる。
さらさら、と触ってないのになぜか自分の手が心地好く感じる。
あたしを見据えるその瞳には、金曜日と同じで強い光が宿っていた。
「俺を45分も待たせるなんて、いい度胸だな。
一体何をしていたんだ」
口調もいつもみたいに厳しいままではあるんだけど、どこか『オレ様』が入っているのは、多分気のせいではない。