バタン!という威勢のいい音とともにドアが閉められ、そのままそこに押し付けられる。
顔を上げれば、すぐそばには彼の顔。
「遅い」
一言、低い声で呟かれた途端、顔から血の気が一気に引く。
「まさか部長、12時にフロアを出てから、ずっとここに………?」
目の前にいるのは桐生部長。
そしてあたしの記憶が正しければ、彼は昼休みになると同時にフロアを出ていったはずだ。
会議室の時計をチラリと見れば12時45分。
どうやらドアの前でけっこう悶えていたらしい。
青ざめるあたしに、部長はさらに顔を近づけて言った。
間近で見る顔は、無表情だけどやっぱり整っていて。
「何分待ったと思ってんだ。
俺を待たせるな」
黒い瞳に吸い込まれそうになりながら、この人の本当の顔を知った気がした。