ところが、あたしが焦っているのを知ってか知らずか、部長の声が背中にかかる。



「笹本。昼休みに渡したい資料があるから会議室に来てくれ」



「、えっ……」



一瞬言葉を理解するのが遅れて、後ろを振り向いたときには彼はあたしに背を向けていた。



その姿はいつもと変わらなくて。



「やっぱり桐生部長ってステキだわー」



うっとりした口調で彼の背中を目で追う梨華の声もただ耳を通り抜けるだけ。



「雨衣よかったわね、部長直々に資料渡してもらえるなんて!」



「うん………」



ゆっくりと前に向き直りながら頷く。



梨華は隣でカッコイイとか仕事のできる男は違うとか言っている。



仕事をしなければ、と思いながらもあたしの心臓はさっきからバクバク鳴っている。



梨華の言う通り、部長が直々に資料を渡してくれるなんて普通はありえない。



それに、無表情で寡黙な桐生部長だからとくに。



だからこそ、彼の意図が分からない。