少し眠っていた様だ。

 サン・ジェルマンはまだ半分も減っていない。

 それを飲み干すと共に、過去という淡く、甘い思い出から抜け出した。



 カバンの中から婚約指輪の入った箱を取り出す。薄緑色の小さな箱に、しっかりと白いリボンが巻きついている。



 衝動的に、リボンを解いた。シュルシュルと小さな音がして、リボンは簡単に解けた。


 蓋を開けると、白銀に輝く指輪が顔を出した。薄暗い照明を鈍く反射させている。


 本当なら、この箱を開くのは俺じゃなかったはずなのにな……


 テーブルの上に指輪を乗せ、転がしたりして弄んだ。バーテンダーがこちらを見ているようであったが、気にもならなかった。


 渡す人のいなくなった指輪はなんの意味も成さない。俺よりも、本当にかわいそうなのはこの指輪なのかもしれない。