「あの子はこの群れを出て行ったのかしらね」
仲間のイルカがそっと側に来て言いました。
「えぇ、そうだと思うわ。
いつか、こんな日が…あの子がこの群れから出て行く日が来るんじゃないかとは
思っていたけど」
お母さんも落ち着いた声で答えました。
「でも、あの子にはまだ若すぎるんじゃないかしら。
独りでご飯を見つけられるのを覚えたばかりじゃなかったの?」
「そうね。でも、こうしていなくなってしまったのだから、仕方ないわね」
そういうお母さんの声は、落ち着いているようで、どこか何かが上の空というような感じでした。

群れの子供の中には、大きくなると群れを離れて独りで生活し始めるイルカもいました。
この群れでも、そういうことは珍しいことではありません。
しかし、仲間のイルカが言うように、
あの男の子のイルカは群れを出て行くにはまだ小さかったのです。
「どうか、立派なイルカになってね…」
お母さんは、小さくそうつぶやくと、
仲間のイルカに優しく促されて、群れの中に戻っていきました。