「……まず、気持ち自体はありがたい。俺も男だから、お前の様な美人に言われればそれはテンションも多少は上がる」

断る。その結果に変わりはない。
だが、今回は目をそらすことなくしっかりと言っている。
NOを、はっきりと突き付けられている。そのほうが、むしろ気が楽だ。

「だけど、俺には陽って大きい娘もいるし、人と妖怪だ。俺は親父と瓜二つだが、親父ほど自由な人間じゃない。その境界を超える度胸は俺にはない」

明確に、はっきりと告げられる断り。
分かりきった結果。
洋子はじっと、無言で聞く。その眼にうっすらと涙がうかんでも、秀明は止めない。

「……何より、過去にすがっていると思われるが、睦美が俺の中で存在がでかい。踏ん切りがつくまでは、新しいそう言うことに目を向けられない」

復讐が、彼女が死んでからの秀明の全てであることは以前聞いた。
それが理由で親子間に亀裂が生じたのだ。


秀明は大きく息を吐き出し、そして言った。


「好きになってくれて、ありがとな」


無理だ。そう言われるより、生温かくほのかに優しいその言葉が、一層強く突き刺さる。
自分はこの人の心に入りこめないと痛感し、洋子はしばらく黙っていた。



秀明は答えてくれた。

きっと、それで十分なはずだ。