「っ!!」

だが、直前になって秀明は突き飛ばす。
完全に揺らぎ傾いた心。だがとっさに、目の前の彼女を拒絶した。


「…………洋子、もういい」

「明ちゃん?」

手で顔を覆う。表情は見えない。
動揺を隠す事の出来ない彼女は、どうしていいのか戸惑い、首をかしげる。
だが、秀明は元に戻るように懇願した。

「ちゃんと答える……だから、止めてくれ」

その声は震えていた。
初めて聞いた声に、洋子は変化をやめた。


「ごめんなさい……。私……」

そこでようやく気付いた。
秀明にとって、まだ彼女の死は過去のものではない。彼女は、まだ大きな傷として残っている。なのにそれを無視した。
自分がどれほど彼の傷を広げたかは想像に難くない。懺悔の気持ちで、頭がいっぱいになる。

「いい。……それ以上は言うな」

震える声。その指の間に見える、銀に煌めくモノ。見て見ぬふりをした。
彼はこんな姿を、誰にも見られたくない人間だから。


「……ちゃんと答える。けど、少し……待ってくれ」

「はい……」

それから少し、秀明の震えがおさまるまで、洋子は待った。
今まで誰にも見せたことのない秀明の弱さ。それを目の当たりにして、洋子もまた動揺していた。


少しの静寂がその場を支配した。