「……明ちゃん」

あの日と同じ呼び名、同じ表情。
今までそらしてきた目が、離せなくなった。

「……」

違う。彼女は洋子が化けた姿でしかない。本当の彼女ではない。
むしろ、死んでしまった彼女をこんな形で対面させることは怒ってもいいことのはず。なのに、なのにあまりにも同じ過ぎて、彼女を彼女と認識してしまう。

「睦美……」

彼女は呆然とする秀明に抱きついた。忘れたことはなかった。今までずっと、鬼狩りをするほどに、彼女の死に執着していた。
その彼女が、目の前にいる。


「……」

ぴったりと抱きつかれた。
頭では理解している。彼女は洋子だという事を。でも、感覚がそれを否定する。
それほどまでに同じ姿。抱きつかれたときにわずかに漂う匂い。それもまた同じ。
何もかもが同じ。何もかもが彼女そのもの。


秀明は彼女を抱きしめた。
十五年越しの抱擁。あの時の無惨な冷たいものと全く違い、温かく美しいままの彼女。
このまま時が止まればいい。
彼女がここにいてくれれば……


抱きしめていた手を緩めた。
また向き合う二人。
彼女はあの時と変わらない。
自分は、ずいぶんと年を重ねた。


今、二人の影が重なろうとしていた。