「小夜子……?」

飛び込んできた彼女に、穂村は初めて動揺をあらわにした。
千夜が止めるのを振り切って小夜子は穂村に歩み寄る。

「近づくなッ! バカなこと止めろ!」

焦燥から来る声は枯れていた。
だが、小夜子は気にせずに歩み寄る。

「私が悪いの」

「来るなッ!」


「私があなたを狂わせた」

「違う! 止めろッ!」



「私が、貴方を裏切ったから」

「頼むからそれ以上言うな!」


どんどん縮まる二人の距離。そして小夜子は穂村の目の前に立つ。


「ごめん。由月……ごめん……」

そっと、小夜子は穂村のからだを抱きしめ、その彼の胸を涙で濡らした。
震える肩、穂村は無理矢理に小夜子を引き離そうとするが、彼女はそれでも離れない。


「貴方だけが悪いんじゃない」

「小夜子……」

穂村の声は震えていた。引き剥がそうとする手は力をなくした。
抵抗をやめ、彼の頬に感情が伝って落ちる。


「終わらせよう……何もかも」







二人は、


落ちた。