「……………!」

「あ、起きましたね」

そこでようやく恭子は目を覚ました。
鼻腔に突き刺さる激臭があたりに漂っていた。

「秀平……それ」

「コーヒーいれてみました。ささ、どうぞ」

「…………」

ゴミを毎晩好んで漁る彼の味覚は常識の物差しを破壊する。
兵器的なコーヒーを平気な顔で飲み干し、笑顔。
本人に自覚がないため、普通に人に勧める。絶句した。


「……あ、ありがとう」

「いえいえっ。じゃあ、僕は開店準備しますね」

烏丸は恭子のお礼の言葉に舞い上がり、上機嫌に店から出て行った。


速攻で捨てた。悪い気がする。
だがそれでもこんな化学兵器の様な液体を飲み干せるのは烏丸しかいない。
そこに、二階から冬矢が降りてきた。

「あ、恭子……またコーヒー勧められたのか」

「まあ…………」

「はは……。まあ許してやれよ。悪気はない」

そんなこと、知っている。
冬矢はケタケタと笑う。冬矢の笑顔は唯一白郎と重なる個所だ。

「代わりにコーヒーをいれるよ」

「ああ、頼む」

そして恭子は冬矢のいれたコーヒーを一口飲んだ。


「うまい」

「だろ?」

こうしたゆっくりとした時間が好きだ。

ゆっくりと、ほっこりとした時間が好きだ。


この時間も、この記憶も、恭子にとっての宝物。

何百年先になったら、きっとこの時間を夢をみるだろう。