なのに、彼はそのあとすぐに死んでしまった。
秀明の目の前で倒れ、苦しむこともほほ笑む間もなく、突然ぱたりと死んでしまった。

秀明の手を引いて歩いていた時、彼は突然倒れた。楽しげな表情のまま、楽しい思い出のまま彼は死んだ。秀明の目の前で、ぽっくりと。


「白郎……?」

棺の中に眠る白郎の手に触れる。冷たい。氷のように冷たくなっている。
もう目の前の男は目を開かない。

泣いた。
人目をはばからず、存在を消す事も忘れて泣き喚いた。
死んでほしくなかった。たとえ想いが受け継がれようとも、白郎という存在がない。


「ねぇ、恭子さん……俺、どうすりゃいいの?」

「秀明……」

「冬矢はまだちっちゃいんだよ? まだ赤ちゃんだよ」

秀明はまだ子供で、恭子にすがりつくしかできない。母親は別の男と再婚している。
すがれるのが、恭子しかいなかったのだ。

「大丈夫。……私がついてる」

彼女はそういって二人の手を握った。白郎の想いを受け継ぐのはこの二人しかいない。
二人を守ろう。二人を守らなくては。そう恭子は心に決めた。


その日から冬矢と秀明は恭子にとっては息子同然の存在となった。
白郎の想いを受け継いだ二人が、そばにいる。

一人ではない。白郎の言葉が脳裏に響く。
家族を心のどこかで望んでいたのかもしれない。

冬矢と秀明の手を握ったとき、愛おしい気持ちになった。
これが家族というものだろうか。

白郎は恭子にとって二度も大事なつながりを持たせてくれた。
大事な友人で、大事な思い人。

白郎との記憶のすべてが恭子にとっての宝物で、

いつもこうして夢で見る。